2026年8月26日、石川県七尾市の和倉温泉お祭り会館で、学生を対象としたワークショップ「和倉地域の未来社会デザイン」が開催された。日本経済新聞社が主催、金沢大学が共催するイベントで、当日は金沢大学のほか首都圏、関西などから10人の大学生・院生が集結。参加者は能登半島地震から2年半たった現地の状況を視察した後、2つのグループに分かれて「創造的復興」を目指す能登・和倉の未来像について活発な議論を展開した。

能登の伝統文化を紹介する和倉温泉お祭り会館に各地から学生が集結
新生・能登を「自分ごと」で考える
今回のワークショップは、遠隔地に暮らす若者に被災の現状をつぶさに見てもらい、肌で感じた「気づき」を踏まえて、新生・能登の青写真を若者の手で描いてもらおうという試みだ。視察に先駆けて行われたオリエンテーションの冒頭、金沢大学社会共創推進部長の枡儀充氏が能登の実情と復興への取り組みについて解説した。
能登半島は、もともと山や川で分断され、有事の際には孤立しやすいという地政学的特徴を持つ。人口減少も顕著で、高齢化率50%超の地域を抱えるなど「課題の先端エリア」だ。枡氏は「今回はそこに地震と豪雨災害が重なり、インフラの復旧が遅れ、人口流出が加速した」と指摘する。
そんな被災地の窮状を逆手に取り、単なる原状回復にとどまらない地域再生の動きも一方で進んでいる。その象徴が、石川県が2024年6月に打ち出した「石川県創造的復興プラン」だ。「能登が示すふるさとの未来」をスローガンに、能登が本来持つ価値に新たな価値を融合させた未来社会の構築を目指す。
これを受けて能登を代表する観光地・和倉でも「和倉温泉創造的復興プラン」を策定。各旅館内で完結していた従来の滞在スタイルを見直し、街を回遊しながら楽しむ「食泊分離」の再興計画が進められている。
枡氏は「明暗両面の和倉の現状と向き合い、次世代に引き継ぐ新たな能登をつくるにはどうすべきかを『自分ごと』として考えてほしい」と参加者に呼びかけた。

いまも残る被災の傷跡、随所に明るさも
オリエンテーションの後、10人は2台の車に分乗し、お祭り会館を出発。再建が進む和倉の街を巡った。
工事が始まったとはいえ、復興途上の温泉街に旅行者の姿はなく、波に洗われる陥没した護岸、剥がれ落ちたままのホテルの壁面が被災の大きさを物語る。
一方、「ポケモン」を復興キャラクターに起用した足湯施設「湯っ足り(ゆったり)パーク」には、七尾湾を眺めながら和む人の姿も数多く見受けられた。
視察の終盤には、和倉のまちづくり拠点「わくらす」を訪問した。ここは「和倉温泉創造的復興まちづくり協議会」が運営する施設で、地元住民の意見を聞く対話イベント「和倉トーク」を定期開催するなど、魅力ある和倉を取り戻す多彩な活動を行っている。
駐在スタッフは、「情報発信・交流・共創という3つの機能を有する和倉再興の重要拠点。ここをベースに地域に交わる関係人口を増やし、継続的な関係性を築くことでより良いまちづくりを実現したい」と意気込みを語った。



宿泊施設の被災状況や営業を再開した足湯施設、まちづくり拠点などを視察
「気づき」踏まえ 若者目線で意見交換
視察を終えた参加者はお祭り会館に戻り、ワークショップの仕上げとなるディスカッションに臨んだ。
このセクションでは10人の学生を5人ずつ2つのグループに分け、それぞれ和倉の復興まちづくり(グループ1)、創造的復興に向けた地域の魅力化・産業振興など(グループ2)を題材に、能登が目指すべき未来社会について若者の視点から意見を交換した。進行役は、グループ1が篠田隆行金沢大学先端科学・社会共創推進機構教授、グループ2は枡氏が担当した。




2つのグループに分かれて意見交換。視察で得た「気づき」を付箋に書き込んでいく
グループ1では、視察での「気づき」や提案などをメモした付箋をホワイトボードに張り付け、各自のバックグラウンドを紹介しながら議論が進んだ。
山形県出身の菊地聡太さん(慶應義塾大学)は初めて能登を訪れた経験から「なぜ能登でなければならないのか」という問いの重要性を取り上げ、「災害支援への関心が薄れていく中、地域が本来持つ魅力を生かしたまちづくりが重要」と指摘した。
神戸市生まれの小寺沙朋さん(立命館大学大学院)は阪神淡路大震災の被災体験に触れつつ、和倉では地元の声を取り入れたまちづくりが進められている点を高く評価。「地元の声を拾うことで、シナジーを持った活気ある地域がつくれる」と語った。
これに対し、他の参加者からは既存イメージにとらわれない「新しい能登らしさの創出も必要」との声も上がり、広島県尾道市の「空き家プロジェクト」などの先進事例が紹介された。

(慶應義塾大学)

(立命館大学大学院)

(立命館大学)

(金沢大学大学院)

(金沢大学)

「あなたが明日から被災地の自治体の首長の役を任されたら何をする?」
議論の中盤、篠田氏から発せられた問いかけに対し、真っ先に挙がったキーワードが「発信」だ。特に、美味しい食べ物や美しい風景、人の優しさといった「災害だけじゃない情報、進もうとしている今の姿を見せることが能登に人を呼ぶ原動力になる」とし、和倉には「情報共有のハブ」機能への期待が示された。
一方で、「観光だけで地域発展できるのか」との疑問も浮上。「レガシーだけでない能登にふさわしい産業のあり方を考えるべき」との認識を共有した。

積極的な施策で「移住」呼び込む
グループ2では「今日の気づき」と「未来アクション」をテーマに議論が交わされた。
参加者からは、「移住者が頑張っている」「アクセスが難しい」「若者が見えない」といった現状認識のほか、「観光の可能性は高い」「地域の文脈を知ることが大事」といった意見が次々と上がった。
大阪から参加した学生は「能登で感じた地域のつながりの強さ」に触れ、「大都市では人と人とのつながりが希薄化している。災害時に自分の地域は大丈夫なのか」と不安の声も。


(関西大学)

(金沢大学大学院)

(法政大学)

(金沢大学)

(金沢大学大学院)
議論が深まる中、多様な人や価値をつなぐストーリーづけの重要性も指摘された。水野耕助さん(金沢大学)は「能登の復興を考えると、高齢の住民が中心となる今後10年間が大切」とし、「事業承継をM&Aと捉え、移住を希望する若者を呼び込むため実験的な政策を集中投下したい」と提案した。
白羽優之介さん(法政大学)は「能登の方と話をすると、『おいしい』という言葉が頻繁に出てくる」と指摘。「さらに聞くと、魚や塩がおいしいといった単なる食の魅力だけでなく、『人の温かさ』『未知のところ』といった体験的な価値まで多様な魅力を意味する言葉であることに気付いた」という。
ここから「おいしい」が新たなキーワードとして浮かび上がり、「誰にとって何がおいしいのかを言語化し、世代ごとに整理してはどうか」「おいしいものに何を掛け合わせれば10年後がハッピーになるか」といった新たな問いに議論が発展した。

日経地方創生フォーラムで成果発表
今回ワークショップに参加した学生の一部は、9月16日に東京都内で開催される「日経地方創生フォーラム」(日本経済新聞社主催、金沢大学共催)に登壇し、この日の成果を報告する。
その発表に向け、2人のアドバイザーからは「被災地復興を考える上で、人のつながりは重要なポイントだ。地元の年配者は若い人が来てくれることを喜ぶ一方、心地よい距離感には地元の人と外部者の双方に微妙な隔たりがある。適度な距離感を保ちながら若者の視点で地元の声を吸い上げてほしい」(枡氏)
「みんな会うのが今回初めてだし、時間的な制約もあり、ワークショップだけでは自分の考えをまとめきれなかった部分もあると思う。フォーラムに出席しない人も一緒になって今回の議論をさらに深掘りし、当日の発表につなげてほしい」(篠田氏)とエールが送られた。
