多様な未来へ、若者の企画力高める 万博レガシー継承イベント③

日本経済新聞社大阪本社は6月10日、大阪市内で「大阪・関西万博 レガシー継承イベント 万博後の新たなムーブメントの創出に向けて」を開催した。当日は約230人が集まり、講演やパネルディスカッションなどを通じて、万博での経験やつながりを未来にどう生かしていくかを考えた。イベント後半は、事業構想大学院大学の田中里沙学長と、大阪・関西万博で会場運営プロデューサーを務めた石川勝氏が講評するピッチングセッションや、慶應義塾大学の蟹江憲史教授によるクロージング講演が行われた。

共創チャレンジ、ネットワークが資産に

ピッチングセッションに先立ち、田中氏と石川氏が「持続可能な事業構想の描き方」をテーマに対談。田中氏は、「未来社会のショーケースである大阪・関西万博をきっかけに、多くの人が未来を自分ごととして考えられるようになった。例えば空飛ぶクルマが実用化されれば、関連事業はさまざまに広がる。またブルーオーシャンドームなどでの体験を経て、海洋環境について考え続けることも未来社会の持続可能性につながる。重要なのは、新しい技術が暮らしや産業、地域にどのような変化をもたらすのかを想像することだ。万博で生まれた多くの共創のチャレンジ、そしてネットワークが大きな資産となったと思っている」と述べた。

若い世代の企画力高め、社会を豊かに

石川氏は「大阪・関西万博は、多くの人の事業構想が積み重なってできたイベントだった。近年は企画力が質的に変化し、分業ではなく、異なる専門分野による共創になっている。企画力を高めるには学際的な視点と実践力が求められ、発想することにも、それを表現するにも技術が必要だ。多くの人が企画力を高めていけば、万博の成果を未来へつなげていける。特に若い世代が新しい事業構想に取り組むことが、これからの社会をより豊かにしていくと考えている」と話した。

学生3団体が事業構想をプレゼン

続く学生発表では、OLEA(オレア)の久保明日希さん(同志社大学4年)と金井莉子さん(同志社大学4年)が登壇。「防災グッズを大切な人へのプレゼントとして贈ってもらえるよう、デザイン性と機能性に優れた防災グッズを集めて展示・販売した。『新しい防災の文化を創造する』というビジョンの実現に向けて、手の届くところにある防災をテーマに活動している。防災を特別なものではなく、日常の中で自然に選び、贈り合えるものにしていきたい」と話した。

続いて、SkinNotes(スキンノーツ)の竹内悠人さん(神戸大学卒)が、緑茶染めの特性を生かしてアトピー性皮膚炎の小学生向けインナーシャツを開発していることを紹介。当事者や家族のコミュニティづくりも進めており、「一般医療機器としての展開を目指している。『着る薬』と、コミュニティによる『つながるケア』を組み合わせ、体と心の両面からアトピー性皮膚炎を支える世界的ブランドをつくりたい」と訴えた。

最後に登壇したのは、とらでぃっしゅの片桐萌絵さん(広島大学4年)。少子高齢化や若年層の流出などにより全国で祭りの消滅が続いていることに危機感を抱き、20歳で民俗芸能専門のコンサルタントとして起業した。「700年以上続く伝統的な祭りで、女性初の現役の担い手として活動してきた経験から、祭りの現場と現代社会をつなぐ必要性を感じた。祭りの底力を信じ、地域と日本をもっと元気にしていきたい」と力説した。

SDGsを超えて多様な未来へ

イベントの最後は蟹江氏が「万博がもたらした未来への示唆とその実現への道筋」をテーマに講演した。来場者の約7割が万博を通じて自分自身の未来を考えるきっかけになったと回答したことに触れ、「大阪・関西万博の重要な成果の一つは、未来はひとつではなく、多様に広がるものだという可能性を示したことだ」と話した。

一方、多様な未来を描くだけではかえって対立につながりかねないとし、「共創と対話を通じて共有ビジョンをつくることが重要になる。その共有ビジョンとなるのが、SDGsを超えてその先へ進む『ビヨンドSDGs』の考え方だ」と指摘。2025年9月には大阪で第1回ビヨンドSDGs官民会議が開催され、その後も万博のレガシーを継承する取り組みが続いている。「これまで日本では、SDGsを外から与えられた目標として受け止める面があった。しかしビヨンドSDGsでは、自分たちの目標を世界の目標にしていくことも可能になる」と蟹江氏。

AI(人工知能)や宇宙利用など、国際的な基準が定まっていない課題は多いが、「気候変動や資源のあり方、産業構造の変化など、これまでとは前提の異なる時代にもなりつつある。だからこそ、万博で多様な未来を先取りした日本、とりわけ大阪には大きなチャンスがある。2030年だけでなく2050年、さらにその先を見据え、万博のレガシーを生かした未来の共創と議論を続けていくことが重要だ」と結んだ。

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