大阪・関西万博の最終盤を飾ったテーマウィーク「SDGs+Beyond いのち輝く未来社会」。10月10日は「サステイナブルなエネルギーを社会に」(主催:日本経済新聞社、共催:石油連盟)が開催された。持続可能なエネルギーの社会実装を目指す石油業界の動向を踏まえ、未来を担う大学生たちとの議論に熱がこもった。
安定供給とカーボンニュートラルの両立を
イベント冒頭、挨拶に立った石油連盟の木藤俊一会長は「石油業界は従来の石油製品と混合できるカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)燃料の開発と社会実装に注力している。既存インフラを活用できる利点があり、混合比率を徐々に上げていくことでカーボンニュートラル移行期のエネルギー安定供給を確保できる」と話した。一方で、コストの高さと原料の安定調達が課題であり、需要創出の仕組みが不可欠と指摘。「課題解決に向け、産学官一体で取り組むことが重要だ。本日のイベントは議論を深める大切な機会だ」と期待を寄せた。
続いて経済産業省資源エネルギー庁の村瀬佳史長官がビデオ登壇した。日本のエネルギーは今も多くを石油などの化石燃料に頼っており、輸送用燃料も石油から作られていると説明。「カーボンニュートラル社会の実現には、エネルギーの低炭素・脱炭素化が不可欠であり、注目されるのが持続可能な航空燃料(SAF)や、ガソリンと混合できるバイオエタノール、二酸化炭素(CO2)と水素を原料にする合成燃料などのカーボンニュートラル燃料だ。既に一部で利用は始まっているが、普及には国民の理解が不可欠だ」とし、脱炭素化への気運向上に期待を示した。
新燃料の混合率向上に期待
セッションの口火を切ったのはタレントのハリー杉山さん。「この10年で気候変動に関するデータや教育環境が整ってきているとは感じるが、世界各国の進捗には不安を覚える」と危機感を語り、「石油の未来の姿について知りたい」と専門家の意見を求めた。
石油連盟広報委員長の森下健一氏は、カーボンニュートラル燃料の普及に努める理由について「既存の自動車を全て電気自動車(EV)に置き換えるには時間がかかる。EVが不向きな寒冷地や長距離での輸送、重機、災害時の利用などにエンジン車は必要だ」と説明。「廃食用油や動植物由来の未利用油から作るバイオディーゼルやエタノール、水素とCO2を合成して作る合成燃料といったドロップイン燃料の混合比率を高めることで、既存インフラを使いながらカーボンニュートラルを進められる」と話した。
KPMGコンサルティングの轟木光氏は、世界のエネルギー需要の8割以上が化石燃料由来であることや、世界の新車販売台数のうち、ガソリン車やハイブリッド車(HV)などの内燃機関搭載車が8割を超えている現状を紹介。「消費者はエンジン車を望んでおり、欧州の環境政策もガソリン車容認の動きが出てきた。加えて、ライフサイクルを比較すると、製造までの段階ではEVの方が内燃機関車より多くのCO2を排出する。廃車までの走行距離が10万~15万キロメートルを超えないとCO2排出量抑制につながらない」と指摘した。「ドロップイン燃料により、内燃機関車のCO2排出量を減らせる」と訴えた。
モデレーターの高橋徹氏が航空燃料に話を振ると、杉山さんは飛行機に乗ることを恥ずかしいとする「フライトシェイム(飛び恥)」がSNSを通して拡散していることに言及。森下氏は「廃食用油やバイオマスから作るSAFならば、既存の飛行機にそのまま使用でき、CO2排出量を最大約8割削減できる」と説いた。杉山さんが現時点でのカーボンニュートラル燃料のコストについて問うと、森下氏は「化石燃料と比べるとカーボンニュートラル燃料は割高になる」とし、轟木氏は「5パーセントでも混合することでCO2排出量削減効果が始まり、負担増も少なくて済む」と、段階的に進める利点を強調した。杉山さんは「石油業界の移行期の戦略が難しいことが分かった。新しい燃料の今後の普及が楽しみだ」と期待を示した。

再エネを輸送しやすい形に
未来世代との対話コーナーでは、日経BANPAKUレポーターの京都大学の吉田健太さんと同志社大学の長野芽衣さんが登壇し、登壇者に質問した。「世界人口が増える中、カーボンニュートラル燃料の原料は食料と競合しないか」という長野さんの問いに、轟木氏が「わらや木材チップなど、食料と競合しないセルロース系廃棄物やふん尿から作る新燃料の開発が進んでいる」と解説した。吉田さんは、「再エネ由来のエネルギーで合成燃料を作るより、直接再エネとして使う方が効率がよいのでは」と質問。轟木氏は再エネ発電の地域差に言及し、「再エネを作る条件のよい地域から需要地に運ぶには、液体燃料のノウハウを生かせる合成燃料の形が適している」と答えた。
最後に森下氏は、若い世代へ向けて「業界の未来への議論に加わってほしい。20年後の社会はもう始まっている。あるべき姿を共有しながら、小さな行動を積み重ねてほしい」と訴えた。杉山さんは「100パーセントの解がない課題には、トライアル・アンド・エラーの精神で、失敗を恐れず挑戦し続けて」とエールを送った。


カーボンニュートラル社会実現へ 未来世代とともに
第2部は木藤会長の挨拶で始まった。「エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルに向けた取り組みの両立が重要だ」と強調。業界の挑戦に触れながら、「学生の意見を聞ける機会を楽しみにしていた」と呼びかけた。
学生のプレゼンテーションに先立ち、モデレーターを務めるキャスターの榎戸教子氏が、タレントの山之内すずさんに2050年の社会がどうあってほしいかを尋ねた。山之内さんは、気候変動によって食が変わっていくことへの懸念を表し、「食材となる生物の多様性を守ることで、今の豊かな食を次の世代につないでいきたい」と語った。

燃料転換で生物多様性守る
最初のプレゼンテーションでは、慶応義塾大学の丸山聖可さんがサンゴ礁の死滅にまつわる課題を取り上げた。
丸山さんは、気候変動による海水温上昇が、サンゴ礁に甚大な被害を及ぼすことを説明。現在のレベルでCO2排出が続けば、40年までに世界のサンゴ礁の7割が成長を止め、死滅したサンゴの外骨格だけ残る白化現象が広がると予測されている。海洋生物の約4分の1はサンゴ礁に依存して生きており、このままでは豊かな海の生物多様性が著しく損なわれる恐れがあるとし、「取り返しのつかない事態に至る前にカーボンニュートラル社会を実現する必要がある」と訴えた。
石油会社に向けて、「合成燃料などの研究・実証を進め、定常運用を早急に開始すること。中長期的には製造拠点を整え、再生可能エネルギー・電化と補完し合う形でカーボンニュートラル燃料を主流化してほしい」と要望した。また「海洋プラスチックごみの問題にも積極的に関わって、回収からケミカルリサイクルまでの大きな流れを社会に実装してほしい」と述べた。

これに対し、第1部から続けて登壇した森下氏が、カーボンニュートラル燃料の定常運用に向けて量産化への課題解決に取り組んでいると説明。「中長期的な目標に向けて、同じ思いを持って進んでいる」と共感を示した。早稲田大学理工学術院教授の関根泰氏は、石油は長い年月をかけて古代の生物が堆積し変性したもので、軽々に使い尽くしてはならないと指摘しながら、「合成燃料は、CO2を燃料に戻すことで環境を守り、日々の暮らしも維持する取り組みだ。新しい燃料の社会実装に向け、数々の科学技術を結集して乗り越える必要がある」と、普及には多方面にわたる協力を積み重ねることが重要だと説いた。山之内さんは、普段の生活の中で子どもたちの環境意識の高さに驚くと述べ、「こうした教育の成果が10年、20年後に結実するはず」と期待をにじませた。
教育通じ環境意識の醸成を
2つ目のプレゼンテーションでは、人口密度の低い「疎空間」でのエネルギー利用について、慶応義塾大学の江頭奈桜さんが問題提起した。
「疎空間」とは、人口密度が1平方キロメートル当たり50人以下の土地のことだ。公共交通機関の共有が難しく、移動・運輸のためのエネルギーがかさむ。このような土地では安価で環境負荷が少なく、災害時にも供給が容易なエネルギーシステムが求められる。マイクログリッド(小規模電力網)やEVの導入も解の一つだが、導入には時間がかかる。導入移行期にはカーボンニュートラル燃料の活用が有効だ。
江頭さんは、フィンランドのイーという、人口1万人に満たない小さな町では、全てのエネルギーを再エネで自給自足していることを紹介。見学した小学校では、児童が節電した結果を記録し、その半額を自治体が還元する制度があり、「エネルギー自立への意識が子どもの頃から自然に醸成される素晴らしい教育だと感じた。住人が一体となって町の持続可能性を支え合う社会を、日本の疎空間でも実現したい」と意欲を見せた。

森下氏は、過疎の進んだ地域のエネルギー問題への解決策の一つとしてサービスステーション(SS)の活用を挙げ、「カーボンニュートラル燃料の供給拠点にしながら、マイクログリッドなどを組み合わせ、地方創生推進の一翼も担える」と利点を説いた。その上で、「住んでいる方々が参加し、地域の文化として誇りを持てるような形にしていくことが必要だ」と述べた。関根氏は、液体のカーボンニュートラル燃料はエネルギー密度が高く、エネルギーを効率的にためられると指摘。「再エネをためる技術、合成燃料を作る技術などは今後も発展していく。カーボンニュートラル社会の実現には、大学、企業、地域社会が三位一体で取り組みを進めていくことが重要だ」とあるべき姿を示した。山之内さんは、「仕事柄、地方で美しい自然に触れる機会が多く、地元の人がこの景色を10年、20年先にも見られるのか不安だという声を多く聞いた。今後どうすれば持続可能な環境を守れるのか、学び続けていきたい」と述べた。榎戸氏は、「エネルギートランジションの過程では、若い世代の議論や消費者の理解が進むことは大切だ」と今回のイベントの意義を伝えて締めくくった。
