第3回「日経BANPAKUゼミ」開催 活動内容を「物語」にして理解深める

日本経済新聞社は9月20日、Z世代の学生向けの連続講座「日経BANPAKUゼミ」の第3回会合を大阪本社(大阪市)で開催した。

同ゼミは、社会課題の解決や大阪・関西万博に向けた学生たちの活動のブラッシュアップを図るのが目的。第3回には36人が参加し、再生可能エネルギー向けの人工知能(AI)開発や国際的な音楽イベントなどに取り組む5団体が発表した。

アクティブラーニングで意見交換する学生たち

学生たちが主体的に学ぶ「アクティブラーニング」では、自身の事業で誰を幸せにするのかを細部まで作り込む「物語」作りに挑戦。作業を進めることにより自身の活動の展開方法を明確にしていった。

アドバイザーは、後継ぎ経営者らの新規事業開発を支援している一般社団法人ベンチャー型事業承継(東京・千代田)の山野千枝代表理事と、経営課題解決のコンサルティングを手掛けるトイトマ(東京・品川)の山中哲男社長が務めた。

「代行」「提案」でスマホの〝欠点〟解消目指す

「Wakakusa(ワカクサ)」の清水健人さん(京都芸術大学3年)は、スマートフォンの長時間使用で日常生活に支障をきたすことや、有益な情報が不必要な情報の山に埋もれているなどの問題があると指摘。対策として、依頼された作業を利用者の代わりに実行する「エージェント機能」や、利用者の好みやニーズを理解した上で日常的に多様な提案をする「サジェスト機能」を備えた「新しいOS(基本ソフト)とハードウェアを開発している」と発表した。

山中氏は「使いたいと思わせる最初の動機づけが大事」とアドバイス。清水さんは「研究していきたい」と応じ、「真に有益な情報に出会い、誰もが平和でワクワクする日々を過ごせる世界を実現したい」と抱負を語った。

開発中のエージェント機能について説明する清水さん

小中高大を巻き込み金融教育コンテストを運営

一般社団法人日本金融教育支援機構(東京・千代田)の藤本壮太さん(甲南大学2年)は、子どものころに「正しい金融知識を習得する」重要性を自身の経験から説明。金融教育の機会として、小学生から大学生まで関わる動画コンテスト「FES(フェス)コンテスト」について紹介した。大学生が運営し、中高生が小学生向けに動画を制作。小学生は動画を見て審査することで全ての世代にとって学びがある環境をつくっているという。

コンテストの規模は拡大しているものの、担い手の大学生のモチベーションに温度差がある点を課題として挙げると、山野氏は「活動の目的を分かっていない人が参加している可能性がある」と指摘。藤本さんは「参加理由やどうなりたいかを確認して対応していきたい」と今後の方針を示した。

動画コンテストの内容を示す藤本さん

音楽で世界の学生と「団結」実現へ

大阪大学2025年日本国際博覧会推進委員会の学生部会「a-tune(ええちゅーん)」は、「紛争や差別などの分断が進む世界」の解決手段として、「言語や文化の壁を越える音楽」に着目。24カ国の学生と連携し、オンライン上で同時演奏する活動を紹介した。副代表の長谷川実紀さん(2年)は、団体理念の「UNITY(ユニティー、団結)」を掲げ、「各個人が自分とは異なる相手の立場、背景を尊重し合える社会を実現したい」と力を込めた。

ユニティーの発信方法について山野氏は「メイキング(舞台裏)映像など、たくさんの若者がプロセスに関わっているのを見せるのが大切」と助言。a-tune技術班リーダーの坂下空蒼さん(2年)は「イベントをつくる過程を見せ、自分たちの考えを知ってもらう機会を増やしたい」と意欲を示した。

音楽活動の内容を紹介する長谷川さん(右)と坂下さん

飲食店の紙ナプキンを新卒採用の広告に

京都大学の学生が運営する「BoCS(ボックス)」は、飲食店の紙ナプキンに求人広告を掲載する事業を披露した。新卒採用の現場の問題について「学生はオンライン上で情報収集に追われ、中小企業は欲しい人材に情報を届けにくい」と分析。そこで、学生が身近な場所で情報を得られ、中小企業が低コストで広告を出せる手段として紙ナプキンに注目したという。共同代表の中井愛さん(2年)は「びらを作っても多くは後に廃棄されてしまうが、すでにある紙を使うので資源の無駄遣いにもならない」と利点を挙げた。

求人企業数をどうやって増やすかが課題になっているといい、山中氏は「企業はどれだけ効果があるのか知りたい。まずはテータ収集を重視して」と手順を提示。中井さんは「データを示し、広告掲載主を絞っていけるようにしたい」と考えを述べた。

紙ナプキンを活用した求人広告を披露した中井さん

再生可能エネルギーの効率的管理でAI開発

人工知能(AI)開発会社「Xer(エクサー)」(奈良県生駒市)の高橋亮太朗社長(近畿大学4年)は、再生可能エネルギーを効率的に管理するために開発した人工知能(AI)について解説。太陽光発電と、発電した余剰電力をためる蓄電池の運用について、電力の需要に応じて最適化するAIを大手事業者向けに提供していくという。高橋さんは「文明の持続可能な発展に貢献したい」と思いを語った。

一方で、自社に必要なエンジニアを見つけられない点を課題として挙げた。山中氏は「専門性が高い人材は限られており、巻き込んでいくためには、先に案件を集めた方がスムーズにいくのでは」と話し、高橋さんは「新規開拓にもっと取り組んでいきたい」と話していた。

「脱炭素」の実現に意欲を示した高橋さん

「たった一人の事例で理解深まる」

アクティブラーニングでは、学生たちが自分の活動を「物語」にする作業に取り組んだ。自分が「助けたい人」を主人公に設定。悩みを抱くようになった経緯から解決までの道筋を考え、そこに自分がどう関わるかを具体的に書きだしていった。

山野氏は「定量的なデータも大事だが、たった1人の事例で活動への理解が深まることがある。リアルでの手触り感を大切にして、深く想像してほしい」と指導。学生たちは活発に意見交換しながら、具体的に物語を作り込み、活動の展開方法が明確になっていくのを実感していた。

■物語を考えるポイント■
 ①あなたが助けたい(幸せにしたい)人がこの物語の主役
 ②その人は何歳で、どこに住み、どんな人で、どういう悩みを抱えているのか?
 ③その人はなぜその悩みを抱えることになったのか?
 ④その人はなぜ今までそれを解決できなかったのか?
 ⑤なぜあなたは解決できるのか?
 ⑥誰がどうやってその人に解決策を伝えるのか?
 ⑦その悩みが解決されると嬉しいのは誰か?

「物語」を具体的に考える重要性を説く山野氏

同ゼミでは、日本経済新聞社の記者が大阪・関西万博の影響を長い期間で見ていく大切さに言及。ゼミ終了後は、参加した学生とビジネスパーソンらによる交流会も行った。

第4回は10月25日に大阪本社で実施する。学生による発表のほか、アクティブラーニングは、顧客にサービスを発信する方法などをテーマに行う。

第3回「日経BANPAKUゼミ」に参加した学生とアドバイザーの皆さん

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!