
世界が直面する課題に対して、ドイツはどんな未来像を描くのか。大阪・関西万博のドイツパビリオン「わ!ドイツ」(Wa! Germany)は、こうした問いに応える場として注目を集めている。今回、ドイツのパビリオンディレクターであるクリストファー・ヘッカー氏に、パビリオンに込めた想いについて話を伺った。
ドイツパビリオンは、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」をテーマにしており、持続可能な社会について楽しみながら学べる内容となっている。タイトルにある「わ!」には、循環の「環(わ)」、調和の「和(わ)」、来場者の驚きを表す「わ!」の3つの意味が込められ、日本語の多義性を生かしたネーミングは多様な文化や価値観が交わる万博という場に見事にマッチしている。

館内に入ると、パビリオンのマスコットキャラクター「サーキュラー」の音声ガイド端末が渡される。サーキュラーは一般的な音声ガイドと異なり、愛らしいビジュアルと少しくだけた言葉遣いが特長だ。親しい友人の話を聞いているような感覚で、館内を巡るうちに、自然とサーキュラーエコノミーについて知ることができる。
ヘッカー氏によると、パビリオンの設計主体である連邦経済・気候保護省(BMWK)と構想を練る段階からマスコットキャラクターを重視しており、日本の「Kawaii」文化も考慮して最終的なデザインに至ったという。
ドイツパビリオンのこだわりは、マスコットキャラクターだけに留まらない。大きな特徴の1つとして、パビリオンのテーマでもある「サーキュラーエコノミー」を、建物全体で体現している点が挙げられる。

パビリオンの建物は、万博の会期終了後、木材などは再利用し、植物は育苗所に返却するなど、材料の90%以上を再利用することになっている。また、冷房設備は万博会場全体で使用されている吸収式冷凍機(ナチュラルチラー)を採用している。これは、水の気化熱を利用して冷水を作り、それを建物に送ることで、環境に配慮しながら冷房することができる仕組みである。加えて、ドイツパビリオンは万博内で車を使用していないという徹底ぶりだ。
そんなドイツパビリオンの見どころについて、ヘッカー氏は次のように語る。「ドイツパビリオンでは、サーキュラーエコノミーに関するさまざまなプロジェクトや商品を紹介しています。これは未来について語るだけでなく、実際にプロジェクトや商品が開発されていることを知っていただくためです」メルセデス・ベンツが素材の循環やプロセス効率の向上など、持続可能性を見直した事例を紹介するなど、計33のプロジェクトや商品が紹介されている。自動車をはじめとしたモビリティー分野以外にも、食品、化学、建設、パーソナルケア、ライフスタイルなど多岐に渡るプロジェクトについて知ることで、持続可能な社会を他人事にせず、自分も未来を形作る一員になれるかもしれない。

こうしたドイツの先進的な取り組みに驚かされていると、ヘッカー氏は次のように続ける。
「日本とヨーロッパでは環境問題へのアプローチが異なり、それぞれに長所と短所があります。日本ではごみの分別が非常に丁寧に行われていたり、水素バスが走ったりするのを見かけました。一方で、ドイツではそうした取り組みはあまり一般的ではありません。」
日本とドイツ、互いにやり方が違うから、どちらかに優劣をつけるのではなく、互いに協力することが何よりも必要だと伺い、まさにそうだと納得させられた。この万博という場所で、日本とドイツが、さらには日本と世界がさまざまな形で協力できるきっかけになればと改めて感じた。
パビリオンの出口でサーキュラーちゃんとお別れをして外に出ると、そこには緑が生い茂る庭園が広がっていた。外はあいにくの暑さだったが、心なしか植物に囲まれたこの空間は、暑さが軽減されているような感覚がした。気候変動や異常気象の片鱗を肌で感じるようになってしまった近年、ドイツパビリオンは単なる展示を超え、私たち一人ひとりが未来のために果たす役割を問いかけている。
私たちは持続可能な未来をどう描くのか――。答えは、私たちの選択に委ねられている。
学生取材班:小原賢慎(大阪大学)
