「化ける」から始まるエネルギーの物語

大阪・関西万博のガスパビリオンは、「化ける」という言葉を軸に、エネルギーが持つ変化の可能性と、未来を自分事として考えるきっかけを届けていた。放射冷却素材「SPACECOOL(スペースクール)」や、二酸化炭素(CO₂)と水素(H₂)から生成される「e-メタン」の展示は、地球温暖化や大気汚染といった課題と向き合い、持続可能な未来を探るヒントが随所に散りばめられている。

VRゴーグルを使った体験では、キャラクター「ミッチー」と一緒に“おばけ”となり、欲望の塊である「キング・C・オーツ」と対峙する。映像演出や照明、スモークによる没入感のなかで、「自分勝手でもいいんじゃない?」という一言が胸に刺さる。それは、無関心がもたらす未来を静かに突きつける問いだった。無関心をそのまま放置すればどうなるかを示すことで、行動がもたらす影響に気づかせ、来場者に当事者意識を芽生えさせていた。e-メタンの仕組みをゲーム性の中で理解でき、エネルギーを学ぶことが「愉しい体験」へと昇華されていた。


印象的だったのは、展示そのもの以上に、スタッフの姿勢だ。「伝えたい」「変えたい」「楽しんでもらいたい」という思いを自らの軸として持ち、「指示がなくても自分で考え、工夫し、動いている」(金澤成子館長)という。その熱が来場者に伝播し、ひとつの体験が次の変化を生む。こうした意識は日本に留まらず、世界へと広がり、カーボンニュートラルな未来への連鎖を起こしていく。

未来は、技術だけでは変わらない。人が動き、思いを共有することで初めて変化が生まれる。生活者と供給者、学びと遊び、科学と感性──そのすべてが繋がったこのガスパビリオンは、ひとりひとりが「変化の担い手」として未来を描くきっかけとなるだろう。実際に”体験する”ことで、エネルギー問題はただの知識ではなく、私たちの日常と結びついたものになる。シンプルなストーリーではあるが、子供から大人へと伝播し、地域から日本、そして全体へと広がっていくことを目指している。変化は遠くの誰かが起こすのではない。一人ひとりの想いが火種となり、未来への連鎖が生まれていく。ガスパビリオンはそれを実感し、小さな変化をもたらす起点となるになるはずだ。

学生取材班:堀琴実(奈良女子大学)

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!