2025年の大阪・関西万博において、日本館が掲げるテーマは「いのちと、いのちの、あいだに」である。このパビリオンの最大の特徴は、「見る展示」ではなく「関わる展示」であること。来場者は展示物をただ鑑賞するのではなく、触れて考え、自分に置き換えて関わっていく。

日本館内部は3エリアに分かれている。各エリアに共通したモチーフは砂時計だ。まるで「さっき通ったかもしれない」と錯覚させるような設計は、命の循環、記憶の循環、人とのつながりの循環を暗示している。展示の中にもある、伊勢神宮の式年遷宮は循環を象徴する日本文化の一つだ。何年も受け継いできたものを科学で裏付け、知恵とし、技術として受け継ぐ。壊すこと、再生すること、そして再利用すること、すべてが命をつなぐ行為である。
あえていのちのあいだに焦点をあてた背景には何があるのか。それは個の存在だけでなく、個と個の関係性を重視することにある。つまり、自分と他者の間に何があるのか、何を渡せるのかを考えることが、人と社会をつなぐきっかけとなる。「自分以外の誰かが抱える課題」に関心を持つことが「自分」を広げる第一歩になる。
日本館基本構想に携わった塩瀬隆之京都大学准教授は、「来場者には日本館での経験を伝えてもらいたい」と話す。パビリオンで体験したこと、学んだことを「誰かに話すこと」で、展示の意味は深まる。体験を言葉にして友人や家族と共有することで、気づきや意見の変化が生まれるかもしれない。そしてその変化こそが、他者と関わった証しなのだという。学校や家庭といった限られたコミュニティの中でも、いつも話さない友達と話すことで知らない考えに出会う。日本館での体験は、万博が終わった後も残り続ける。そこから得た知恵や技術、考え方をどう持ち帰り、どう社会に循環させていくか。まさにそれが「いのちのあいだ」で問われている本質であるのだろう。

学生取材班:人知遥(兵庫県立大学)