余白で考える万博の未来 2025年日本館の思想と設計

大阪・夢洲の地に建つ、未来を描く木の板が連なる建物。2025年大阪・関西万博の中でもひときわ注目を集めているのが「日本館」だ。建物の外観、テクノロジーと伝統が交差する展示、そして何よりその背後にある思想に、私は強く惹きつけられた。
今回は実際に日本館を見学し、日本館基本構想に携わった塩瀬隆之京都大学准教授に話を伺った内容についてまとめたい。

日本館は、「いのちと、いのちの、あいだに」をテーマに、「循環」の視点から未来を見つめるパビリオンだ。円環状の建物を1周しながら循環のプロセスを体験できる。「プラントエリア」「ファームエリア」「ファクトリーエリア」の3つのエリアで構成されており、万博会場で出た生ごみが水やエネルギーへと形を変え、日常生活で活用されるものへと姿を変えていく流れを体感することができる。特徴的なのは、3つのエリアの入口に巨大な砂時計のモニュメントが設置されている点だ。塩瀬氏は「循環とは本来、決められた場所から始まるのではない。砂時計のモニュメントを見て『あれ、さっきもここ来たかな?』と思いながら、自分自身も何度も繰り返される循環の一部となるのを体験してほしい」と言う。

2020年より始まった日本館基本構想ワークショップにも携わっている塩瀬氏は、今回の日本館のテーマである「いのちと、いのちの、あいだに」において、最も重要なのは「、」(読点)だと強調した。人やものといった「個」だけではなく、個と個の間にある「関係」が重要であると考えており、「自分だけで世の中に存在しているわけではなく、自分と誰かがいて、その間に関係性があるから自分はここにいられるということを知ってほしい」。

普段、わたしたちはものの循環に目を向ける機会は多くない。リユースやリセールはフリマアプリの普及などによって広まっているものの、ものの形が変わるリサイクルにおいてはごみの分別などでしか参加することができない。日本館で微生物や藻類といったものに目を向けるのは、循環を自分ごと化したり、自分と他者やものとの関係性について考えたりする良いきっかけになるだろう。

円環状の日本館の中心で、塩瀬氏は次のように明かした。「実は日本館の1番の見どころは火星の石ではなく、中央の『何もないエリア』なんです」そこには微生物によって浄化された、純水に近い水が入った水盤が空へと開かれている。その開放的で何もない空間は、余白や余韻を重んじる日本の価値観が反映されているように感じる。また、その静かな空間は、これまで見た展示やそこで抱いた感情を反芻し、それぞれの展示の意味やわたしたちとの繋がりについて考えるきっかけになる。特定のものを置く展示空間ではなく、あえて余白とすることで、来館者が自分自身で考えや感情を巡らせることができる。そしてこれこそが、余白や余韻を重んじる日本文化を体験することであり、日本館のすべてが詰まっているとも解釈できる。

提供︓経済産業省

日本館で過ごした時間は、未来を予測するのではなく、未来と対話するような体験だった。わたしたちがこれからどんな社会をつくっていくか。その答えは、完成された展示の中ではなく、「間」に開かれた余白の中にある。その余白にどんな問いを立て、どんな関係を紡ぐのか。それこそが、これからの「循環」を形づくっていくのだろう。

学生取材班:小原賢慎(大阪大学)

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