日本経済新聞社大阪本社が主催した「NEXT KANSAI フォーラム 2026」で2月18日、タカラベルモントの石川由紀子・広報部マネージャーは万博レガシーとして取り組むユニフォームを寄贈するプロジェクトについて講演した。

「人間がいれば、髪が伸びる。髪が伸びれば、美容が要る。人間がいるところには、市場がある」――鋳物工場からはじまったタカラベルモントは、創業者のそんな気づきによって理美容業界にも進出した。日本に暮らしていて、私たちがつくった椅子やシャンプー台に座ったことがない方は、おそらくいないのではないだろうか。
そんな私たちが昨年、大阪・関西万博の開幕に寄せた広告のコピーは「美しき常識はずれ」。これはタカラベルモントが創業以来、一貫して持ち続けてきたDNAだ。当たり前を疑い、異なる視点から思考を深める。この姿勢で私たちは新たな市場を見つけ、事業を拡大してきた。万博にも二度参加している。

1970年の大阪万博へ参加したときのキーワードは「挑戦」。資本金一億円の中小企業だった私たちが、「美しく生きる喜び」をテーマに単独パビリオンを出展した。クリエイティブは黒川紀章にコシノジュンコ、横尾忠則といった、当時の日本文化を牽引する若きアーティストたちに依頼している。コシノジュンコがデザインしたユニフォームは、イギリスのモデル・ツィッギーが一世を風靡し、ミニスカートが全盛期だったあの時代に、あえてのパンツスタイル。「万博以降は、かならず女性が活躍する時代が来る。だから、動きやすくてスタイリッシュなスタイルを提案したかった」と、コシノ氏は当時を振り返る。万博のユニフォームはこのように、以降の「社会の当たり前」をつくっていくデザインだったのではないだろうか。
そして迎えた昨年、私たちにとって二度目の万博。今回は「実験」をテーマとし、大阪ヘルスケアパビリオンのなかにブースを出展した。2050年の宇宙時代を表現し、新しい“美”についてお客様と一緒に考える展示「多様な社会、多様な美」だ。ふたたびコシノ氏とコラボレーションしたユニフォームにも、実験的な要素を盛り込んでいる。男女の区別なくワンスタイルで、モデルの全員にメイクやネイルを施したのだ。「男性だからこう」「女性はこうあるべきだ」といったジェンダーの問題をすべてとっぱらい、タカラベルモントの新たな“美”への姿勢を示した。

二度の万博を経て私たちが行きついたレガシーは「万博への想いを語り継ぎ、次世代に伝える」こと。そこで、万博閉幕翌日から全国の小中学校や高校、理美容専門学校に向けて、ある募集をはじめた。当社の万博ユニフォームを授業に活用してもらうため、寄贈先を募ったのだ。
各学校から集まった活用アイディアは、どれもユニークだった。「芸術にふれあう機会として、図工や総合で活用したい」「未来のビューティクリエイターを目指す学生たちに、ユニフォームからインスパイアを受けて新しいファッションを考えてもらいたい」――なかでも私たちが感銘を受けたのは、九州の小学生から寄せられたコメントだ。その児童は「自分たちが大人になったとき、このユニフォームを見ることでまた、日本で万博を開催したいという気持ちになると思う。そうなれば、日本はもっといい国になると思う」と言う。これを聞き、ユニフォームをレガシーとして手渡す選択が間違っていなかったことを実感した。

高度経済成長期にあった1970年の万博は、日本の飛躍を目指すイベントだったといえる。だが、少子高齢化や人口減のフェーズに入ったいまは、経済合理性だけを求めるものではない。普遍的な価値を残し、経済と文化を両立させていくことこそ、タカラベルモントが万博を経て目指す未来だ。今回、ユニフォームを寄贈した若者たちから、何らかの答えが出てくるのは早くても数十年後。見届けることはできないかもしれないけれど、未来に委ね、託すことこそが、万博のレガシーだ。
