”いのちを高める”未来の学び・遊び　大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちの遊び場クラゲ館」の旅路

世界的打楽器奏者の作品を演奏

中島　今回、せっかくなので世界の文化を感じる機会にしたいということで、サバール奏者のアブライ氏に来ていただいた。彼もそうだが、彼の父ドゥドゥ・ンジャイ・ローズ氏は世界的な音楽家。まずは一曲、ドゥドゥ氏の曲を演奏したい。

（※演奏）

アブライ　私はセネガル出身で日本に15年住んでいる。世界中を巡ってきたが、日本が一番良い国だと思っている。なぜならば、平和で真面目な国だと感じるから。日本の文化が大好きだが、セネガルの文化は日本に浸透していない。両国の文化のコラボレーションをしてみたいと思っている。先ほど演奏した曲は、私の父が世界平和を願って作った曲だ。

中島　アフリカの音楽にはいつも学ばせてもらっている。国によっていろいろな違いがありながら、音楽はもちろん衣装や食べ物などを通じて交流できるのは素敵なこと。万博を機にまたセネガルのことをもっと知ることができればと思う。

アフリカで感じたエネルギー 

中島　現在、万博のテーマ事業プロデューサーの一人として、シグネチャーパビリオン「いのちの遊び場クラゲ館」の完成に向けて取り組んでいる。私はサイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学の４分野を統合的に学ぶSTEM教育に、芸術やリベラルアーツを加えたSTEAM教育の重要性を提唱。steAmという会社を立ち上げ、学校や企業への啓発活動をしている。

　そもそも教育や生き方では、正しい答えが一つということはなく、揺らぎがある遊びが重要だと考えている 。一人ひとりが持つ、１つの軸ではかりきれない創造性。これを発揮できる「創造性の民主化」へと社会を変えていきたいという思いが原動力となっている。

　昨年、初めてエチオピア、ケニア、ガーナを訪問した。そこで見たのは、大量のごみを磨き上げたリユース製品などを販売する7000もの店がある世界最大級のオープンマーケットだ。人々が生活する姿にはエネルギーが感じられ、アートを生み出している場所もたくさんあった。

　ケニアでは現地の部族たちと一緒に音楽を奏でたり、踊ったりすることでリアルに仲良くなれた。

　つづいてガーナのスラム（アグボグブロシー）では、世界最大の電子機器の墓場と呼ばれるごみの山があり、そこで生活する人々は、ごみを燃やし、回収したレアメタルを換金して糧を得ていた。実は今回万博でもご一緒するアーティストの長坂真護氏がここを拠点としており、ガーナの方々と共に事業を展開したり学びの場を作ったり、アートをしたい時にはフェスティバルも開催しながら、いろいろな方と新しい未来社会のあり方を模索する場づくりをされている。

あらゆるものの価値が開く万博へ 

　今、万博のシグネチャーパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」を造っている。創造性やいのちにとって大事なものは「ゆらぎのある遊び」であり、時に言葉にならないものが大事だということで「クラゲ」という言葉にたどり着いた。

　パビリオンは、2階が半屋外の公園のようになっていて、ワークショップができる。今、「好き」をテーマにしたワークショップを高校生が考えており、一部の高校生には実際に万博でワークショップを行ってもらう予定だ。また、ここで何かやりたいという方や団体がいれば、実現できる可能性もある。そういった余地を残して誰もが参加し遊び学べるようにしている。

　このパビリオンをつくっていくにあたって、例えば「未来の地球学校」として、いろいろな学校の先生や子供たちを繋いで探究を行ってきた。また、万博開催までに、音楽を奏でながらクリーン活動を行ったり、ジェンダーイベントを行ったりと事前イベントも予定している。会期中にも、5月3日には「ごみ祭り」を行うなど多くの方々を巻き込む取り組みを行う予定だ。

　子供も大人もシニアも、今「学び」が変わってきている。いろいろな境界を超えていく時代の中で、何ができるのか。万博といえば、国が主導し、どこか自分たちと遠い世界で行われているような感覚さえあるが、弱きもの・小さきもの・少なきものの声や価値が花開く、そんな万博を目指したい。この万博を機会と捉えて、創造性を民主化していきたい。