今 ここに 共に生きる奇跡〜多次元的、未来社会のデザイン〜

2025大阪・関西万博
テーマ事業プロデューサー

河森 正治


アニメーション監督
メカニックデザイナー
ビジョンクリエーター 

2025大阪・関西万博
テーマ事業プロデューサー

河森 正治


アニメーション監督
メカニックデザイナー
ビジョンクリエーター 

多次元的アプローチで問題解決を考える

 私はこれまでオリジナル、世界初という点にこだわり、関わったほとんどの作品は自身が原作者でもある。そこで重要なことはリサーチで、例えば飛行機ならば飛行力学について、自動車であれば基本構造やパッケージを自分で理解してから、デザインに取りかかるようにしてきた。その際に自分なりに考えたのが、講演名にも入れた「多次元的」アプローチだ。 

 今回は詳細まで触れないが、アプローチとしては「視点を変える」「次元を変える」「立脚点を変える」「視野を広げる」「潜在意識を活用する」という形で、段階的に発想を進めていく。視点を変えるということであれば、水平に空を飛ぶ飛行機も垂直にすればヒト型ロボットの胸になるかもしれない。エンジン部分を立ち上げて垂直にすれば足に見えるかも知れない。次元を変えるということなら、武器の力ではなく、文化の力によって戦争を解決する。私がひらめいたのは歌による解決で、自分でもカルチャーショックとなった。

© 2022 Shoji Kawamori / Office Shogo Onodera, All rights reserved.

自然からの刺激で生命は輝く

 24歳の時、長期休暇を取得して渡米した。朝から晩までミュージカルやショーを鑑賞したり、グランドキャニオンやヨセミテ国立公園まで足を運んだり、NASA(米航空宇宙局)の施設やロケット打ち上げを見たりした。しかし、次元が変わるほどの刺激が得られなかった。それで今度は中国へ向かった。衝撃を受けたのは、ある少数民族のエリアへ行った時に見た子供の目の輝き。テレビも電気もないこのエリアで生きる子供たちと自分との違いは何かを考えると、数年間は仕事が手につかなかった。それからも海外を歩いたが、わかってきたのはテクノロジーの進歩は生命の輝きには影響しない、下手をすれ命の輝きを損なってしまうということだった。

©SHOJI KAWAMORI / Vector Vision​

 ネパールを旅していたとき、8000メートル級の山に囲まれた谷間を歩いていると、突然現地のガイドが大きな声で話しはじめた。どうやらそれは、谷を一つ越えた向こう側の誰かとの会話だった。私は視力が2.0あったが見つけることはできない。そのガイドは、10キロ以上はなれた谷で雪崩が起きた音が聞こえたといい、予定していた目的地への移動を取り止めたのだった。この感覚、観察力は、自然から多くの情報を得られているからではないか。そして、それらから感性を刺激されているからこそ、イキイキと生活しているのではないかとの仮説を立てるに至った。

万博では、人間中心ではない生命の繋がりをテーマに

 大阪万博の事業プロデューサーとしてお話をいただいたとき、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマを聞いて真っ先に思い出したのが、あの時の子供の目の輝きだった。開会に先駆けてスタートさせたプロジェクト「いのち繋がる! みゃくみゃくいきものクエスト」も、共存のカギとなる観察力や感性を養うきっかけになればと思っている。これは単なる生物観察アプリではなく、これを通して「今どの地域にどんな生き物がいるのか」「ここにまだ絶滅危惧種が残っていたのか」「ここには来てはまずい外来種がいる」といった情報を集約し、日本そして世界の生態系を復活させていくことに貢献する。このプロジェクトは誰でも参加できるようになっている。人間中心だけではなく、いのちの繋がり、そしてどれも平等でどれも大切でどれも輝いていくような、そんなことを思ってビジュアルを作成した。今ここにともに生きる奇跡、これが私たちのテーマだ。

 今回、多くの方々に私の話を聞いていただけたことは、とても奇跡的なことだと捉えている。そして、自身の感覚や感受性、観察力が高まれば高まるほど奇跡をさらに深く味わえると考えている。「すべてのものがともに生きている」ことを実感できる社会、そして時代を作れればと願っています。

©SHOJI KAWAMORI / Vector Vision​

今 ここに 共に生きる奇跡〜多次元的、未来社会のデザイン〜

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