「視る」と「魅せる」の両面で万博を分析 日経未来社会共創ゼミ

日本経済新聞社は7月25日、大阪・関西万博の魅力や意義について、来場者の「視(み)る側」と出展者の「魅せる側」の両面から多角的に分析するゼミを大阪本社(大阪市)で開催した。

連日会場を訪れている万博マニアと、国内外のパビリオンの担当者ら計6人が万博の楽しみ方などを講演した。参加した大学生や高校生は、事前学習の大切さや、万博で得た経験を将来に生かす重要性を学んだ。

参加した学生、生徒と登壇者たち

社会課題の解決に向き合うZ世代の学生たちを対象に、学びや交流の機会を提供する「日経未来社会共創ゼミ」の一環で企画した。

4月13日に開幕した万博は、10月13日までの会期の折り返しを過ぎたことから、後半に向けて活動をアップデートするための視点や学びを提供するのが目的だ。

事前の情報収集が大事

「視る側」からは、1970年の大阪万博で太陽の塔の保存に貢献し、「万博おじさん」として親しまれる藤井秀雄氏と、国内外の万博を訪れてきた「博覧会マニア」の二神敦氏が万博の楽しみ方を紹介した。

藤井氏は、各パビリオンが「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」という万博のサブテーマを踏まえて設計されている点を解説した。事前にアプリなどで情報を得ておくことが大切だとして、「テーマや背景を意識すると、自分の関心のある点がより明確になり、皆さんがこれからどのような方向に進んでいきたいか、ヒントや気づきを与えてくれる」と強調した。

マニアならではの楽しみ方として、自分の衣服に様々な万博関連バッジをつけておき、各パビリオンを訪問した際にスタッフとバッジ交換の交渉をしながら交流する独自のコミュニケーション術も披露した。

バッジを衣服につけている目的を明かす藤井氏

反対派意見で理解深まる

二神氏は、会場外の動きにも着目した。万博開催への反対派の声について「反対の意見があったからこそ、全く逆の視点が見え、万博への理解が深まった」と指摘。「物事には様々な考え方があり、自分とは違う意見でも受け止めることはできると実感した」と、万博が多様性を理解する機会になっていると評した。

また、万博で関心を持ったことを会場外で学ぶ楽しさもあるといい、「大屋根リング」を手がけた建築家の藤本壮介氏の個展などを訪れて見識を深めていることを伝えた。

万博を機に関心の幅を広げる楽しさを伝える二神氏

経験の蓄積を

「魅せる側」は、国内パビリオンから電気事業連合会の「電力館 可能性のタマゴたち」と、パソナグループの「PASONA NATUREVERSE(パソナ ネイチャーバース)」の各館長と、海外パビリオンからフィリピン館とドイツ館の関係者、計4人が一堂に会した。

電力館の岡田康伸館長は、「エネルギーの可能性で未来を切り開く」をテーマに掲げ、館内で「可能性のタマゴ」を紹介するというコンセプトを説明した。次世代エネルギーの一つ、核融合発電など29種類のエネルギー技術を提示し、来場者は卵型デバイスを手に体験する。

じっくりと体験を楽しむ来場者が相次ぎ、注目パビリオンになっているといい、「来場者の関心によって、楽しめる場所は変わる。万博にはパビリオンだけでなく、様々な出会いや気づき、そして学びが詰まっている。会場に足を運んで多くの経験をしてほしい」と訴えた。

多くの経験を呼び掛ける岡田氏

壁を越えて共創を

パソナ館の小沢達也館長は、iPS細胞由来のミニ心臓など11のコンテンツについて、パビリオンの案内役「ネオアトム」と共に巡る魅力を紹介した。「来場者の皆さんは、からだ・こころ・きずなの健康というテーマについて、純粋な気持ちで受け止めてくれている」と手応えを述べた。継続的に体験の機会を設けるため、万博後はパビリオンを淡路島に移設し、一般に公開する計画も明かした。

また、「これからの社会で新しいものを生み出していくためには、時には組織や制度など様々なものの壁を越えて共創していくことが必要だ」とし、「皆さんと様々な情報交換をしながら、真に豊かな社会を築いていきたい」と力を込めた。

共創の必要性を訴える小沢氏

フィリピンのホスピタリティー

フィリピン観光省大阪事務所の竹原浩二氏は、フィリピン館では伝統産業の織物を通して文化や地域を紹介していることを案内した。巨大スクリーンに来場者のアバター(分身)を映して踊るスペースや、人工知能(AI)を活用した写真撮影のコーナーなどを紹介し、「相手を思いやり、自身もそれを楽しむというフィリピーノ・ホスピタリティーを感じてほしい」と語った。

竹原氏は、フィリピンでは日本に比べて女性の活躍が進んでいることなどを示し、「万博後はぜひフィリピンに来てほしい。多様な学びが得られる環境が整っており、きっと何かを得て帰ってもらえる」と呼び掛けた。

「フィリピーノ・ホスピタリティーを感じてほしい」と話す竹原氏

循環経済の実験場

大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館の多田亜希子氏は、ドイツ館のテーマ「循環経済(サーキュラー・エコノミー)」と、タイトル「わ! ドイツ」について解説した。「わ!」には、循環の「環(わ)」、調和の「和(わ)」、 感嘆の「わ!」の3つの意味を込めているという。「サーキュラー」というマスコットを手に展示物を楽しむ仕掛けだ。

また、万博のコンセプトが「未来社会の実験場」と打ち出されている点に焦点を当てた。従来の建築物では見られないという「キノコ類の菌糸」を使った壁を採用していることなどに触れ、「新しい技術を使い、お披露目し、そこで良いと評価されたものを実際に導入していく実験場としての役割は重要だ」と言及した。

ドイツ館の特徴を解説する多田さん

講演後は全登壇者が壇上にあがり、質疑の時間を設けた。世界各国の防災対策について万博会場で100カ国以上を対象に調査した高校生が登壇者の考えを聞いたり、電力問題に関心のある大学生が質問をしたりした。

進行役を務めたコンサルタント会社ドリアイイノベーション代表社員の林俊武氏は、三井住友銀行時代に共創によって万博の決済サービスを構築した。「これからは皆さんが万博の場や機会を最大限に活用し、多様な人々とのつながりを通じて新たなものを生み出していってほしい」とエールを送った。

学生との質疑に臨む登壇者たち

見方を変えて再訪を

ゼミの後には、交流会も実施した。学生らは、関心のあるテーマや国の話について登壇者らとやりとりし、交流を深めた。

学生団体を立ち上げたという兵庫県立大学2年の桜井亮太さんは「万博は人々が熱狂する場だ。私も多様な人々が夢を持って集まり、熱狂が生まれる瞬間を創りだしたい。パビリオンの運営方法や会場以外でのコンテンツのつくり方など、吸収すべきものがたくさんあった」と喜んでいた。

万博会場に2度訪れたという京都光華女子大学3年の伊藤彩香さんは「来場者の視点で話を聞けたのが新鮮だった。それぞれのパビリオンのテーマを踏まえて巡ると、これまでと見方が変わり、新たな学びが生まれると感じた」と話し、再訪に意欲を示した。

日本経済新聞社大阪・関西万博室の楢崎健次郎室長は、5歳の時に1970年の大阪万博に訪れて描いた絵を紹介し、万博が来場者の心に及ぼす影響に言及。「近い将来、皆さんは魅せる側になる。私だったらどのように魅せられるだろうかとイメージしてほしい」と激励した。

登壇者と交流を深める学生たち

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